『祇園会』001〜022話



1〜10話

 主人の用事に付き添って洛中に来ていた五郎左は、物乞いの様子を見ていて、良い条件で雇われているとはいえないために、空腹を感じてしまう。そんなところ、異形の男から餅を差し出された。

 男の名は、意外。餅に使われる米の種類が判別できるようで、また、五郎左の主人・新左衛門(四条東洞院にある小舎人新左衛門という酒屋)の先代を知っているようだった。
 意外とのやり取りを見ていた新左衛門は、五郎左が持っていた餅を奪った。


 応仁の乱後、50年にもなるが、戦乱は一向におさまらない。将軍の権力を管領・細川家が奪い、その細川家はお家騒動で分裂。その争いに家臣団たちも加わり、混乱している。
 1527年、四国阿波から足利義維と細川晴元の兵が押しかけ、将軍義晴を擁していた細川高国を洛中から追いやってしまい、義維は「堺公方府」を称するようになった。

 それから、洛中は荒れるようになった。町衆は自分たちの財産を守るために、お金を出し合って「構」という囲いを区画ごとに作るようになった。普通はお金を出し合って作るのだが、個人一軒で負担することもあり、そうなると、構は"有徳人の城"と言える。
 有徳人としての新左衛門も構を持ち、五郎左は、その入口の一つを番していた。
 堺公方府の兵が京に乱入するという噂で、新しい構が続々とできあがっていた。


 夜、夜盗の警護をする五郎左のところに、意外坊が酒を持って現れた。
 二人の宴が始まり、五郎左は生い立ちを語る。
 五郎左は、備前・宇佐の生まれで、母の死とともに父親と都にやってきたが、父は戦で討ち死にとなった。それから稚児にさせられたが、すぐにそこを出た。
 浮浪児となった五郎左を新左衛門が雇い入れたのは、打刀の技を持っていたからだった。
 新左衛門は、洛中の治安維持を担当してもいて、応仁の乱後、祇園社の神人とつながり、お金をためて、金融業者になった。すると敵が生じることになる。
 ある日、暴漢に襲われそうになったところを、五郎左が刀で助けたのだった。


11〜15話

 堺の足利義維は位をもらい、細川晴元は守護代になり、堺公方府の軍兵乱入は避けられる見通しとなった。これで町民たちは、安心して祇園会の準備ができる。

 新左衛門は、祇園会警護団に携わりながら、祭りの華である山鉾を出す側もやっていた。その会議を行っている場所へ呼ばれた五郎左。

 山鉾の演目がきまり、新左衛門は獄卒の役についたことで機嫌が悪くなっていた。
 日頃の威張り散らした態度のしっぺ返しをくらったと、五郎左は思う。

 獄卒の役が着る虎の皮の衣装が、貸したまま戻ってきていないが、それを取り戻すように五郎左は命じられた。
 借りているのは伊勢の悪平太。悪平太は足軽の頭で、必要悪として町衆に雇われたり、博打によって生計をたてていて、子分も多くいた。
 伊勢が返さない場合にはこれを使えと、備前の長光を渡される。五郎左は、「運よく取り戻せたら良しとして、本当のところ、厄介払いをしたいのだ。虎の衣装が戻らなければ獄卒の役を演じて恥をかくこともないし」と、新左衛門の意図に気付く。

 困った五郎左は、鴨の河原をさまようが、田楽法師の唄を聞いて、開き直る。
 これ以上落ちることもない、と伊勢の悪平太のもとへと向かった。


16〜22話

 悪平太の家には恐ろしき者がいるから近づくのはやめておけ、と忠告される。しかし、主人の使いでどうしてもいかなければならないという五郎左は、悪平太がいると教えてもらった六波羅密寺へ向かった。

 悪平太の家の前で声をかけるが、女の怒鳴り声が聞こえるだけ。思い切って戸を開けた五郎左は、女が髭面の男を追いまわし、男の頭などを打っている光景を見た。
 気の毒に思った五郎左は、二人の間に入った。
 五郎左の存在に気付いた女は、五郎左に訴える。
 女によると、男は悪平太とは言われているが、仕事は手下に任せきりだし、お金があれば酒を飲み、女と遊ぶ。自慢の髭面で女を釣るのが許せない。それでも見て見ぬふりをしていたが、神輿の使番(神輿の先導役)になったことは見逃せない、と言う。
 使番は派手な甲冑を身にまとうなど、その装束を用意するだけで大金が必要となる。装束を買うと、女のお金に手を出し、使番になるよう勧めたのが遊女だったことが女の怒りとなった。

 遊女は失脚した管領・細川高国の愛妾で、現在は高国を追いやった三好家の者とできていて、贅沢な暮しをしているらしく、そんな女が足軽の頭目に傾くはずがないと、五郎左は見ている。

 五郎左は、女に説く。
 これは、入京を目指す堺公方方の悪だくみではないか、と。公方方は洛中に残っている諸勢力をつぶしておきたい。しかし力で押せば、洛中の者たちがまとまって立ちあがってしまう。そこで女を近づけて思いのままに動かす。お金を失わせれば悪も働けなくなる、という算段だろう、と。
 そして五郎左は、天竺の話をする。
 バッタラという男が毎日出かける際、妻はきれいな下着とお金を用意してくれていた。外に女を作っても癇癪を起さない女に、男はなぜかと問うた。「人気がない夫より、人気がある夫の方が妻としても誇らしいから、夜は必ず戻ってきてください」と言った。バッタラは心を動かされ、以後、女のところには行かなくなったという。
 公方ともつながる遊女が悪平太になびいたと聞けば、男どもは称賛するだろうと、その昔、女を通じて公方に近づき出世した印地の話を出す。
 納得した女は、しかし使番だけは嫌だと言う。
 それならば、髭を整えれば不向きとされ、使番ははずされよう、とアドバイスする。
 五郎左は、なぜ悪平太の元へ来たか、仔細を語った。ところが、目的である虎の皮はすでに切り分けられ、残りは一尺四方のみのようだった。
 虎皮がなければ身を追われるからと自害を考える。
 印地になれという悪平太の誘いに、「兵法者伊東元就の子だから」と断る。悪平太にはそれが友のことだとわかった。細川家内紛時に足軽働きとなった悪平太は、元就から打ち刀を習っていたのだ。元就に恩がある悪平太は、その子、五郎左のために、境内の神社に居場所を作ってやる。
 三日ほど、あてがわれた所で何もせず過ごした五郎左の元へ、悪平太がやってきた。
 東国に下る馬借の群れに仕事がある、と。



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