(3)








 先攻後攻を決めるバンキング。島田は5番球を、澤田は7番球をそれぞれ手にする。テーブルに立ち、互いを感じながらフォームを作る。

 「では、参ろうか」

 「よろしくお願いいたします」

 ほぼ同時にそれぞれの球を撞いた。
 まっすぐに転がった球は、クッションにあたり、来た道をなぞるように、かえってくる。

 澤田の7番球の方が、より手前にあった。



 島田がラックを組む。

 そのしぐさを見ながら、澤田は自分のブレイク用キューにチョークをこすりつける。
 1番を狙ってかまえ、瞬発力を利用して、キューを前に撞き出す。
 的球はきれいに散っているが、ポケットできなかったため、島田が立ち上がる。

 1番はポケットのふちにある。島田はわざと厚みをつけ、手球がスクラッチしないようにし、かつ、2番を落としやすい場所に出す。
 2番を無理なくポケットし、手球は3番に有利な場所へ出す。
 この時点で、9番まで島田がどう落とし、どう手球を出してゆくか、澤田にも見えてしまっていた。
 3番をサイドポケットへ狙う。4番もサイドに落としやすい位置にあるため、左下の撞点で手球に引きと左ひねりを加える。よって、手球はクッションしたあとに少し戻り、他の球に邪魔されずに4番を狙える。
 4番をサイドへ。
 5番をコーナーへ落とし、手球はクッションさせることで戻り、6番が狙いやすくなる。
 6番もコーナーへ。弱く押して、7番を狙いやすくする。
 8番を狙いやすくするために、7番はストップで。
 8番をサイドに緩く落とし、そのまま9番をサイドへ落とす。



 澤田がラックを組む。

 島田が力強いブレイクをした。硬いプラスチックがはじけるような音が、響く。
 澤田は、この音が気持ちいいと、思う。
 7番が入り、続けて、1番から3番をポケット。
 5番に出すためにはひねりをつかわなければならず、そのひねりのかかりが悪かったために、4番をポケットできない。

 澤田が4番、5番と続けて、緩く撞くだけで落とす。
 6番は、厚みを見誤りポケットできない。

 島田が6番をポケットする。
 8番はポケットできない。

 澤田はチョークをこすりながら、考える。
 ポケットは8番の右側。手球に右ひねりをかけてクッションさせれば、8番にあたり、ポケットできるはず・・・。

 「見事っ!」

 澤田ははにかんだ笑みを浮かべる。
 9番への出も良い。そして、9番もポケットする。



 島田がラックを組む。

 澤田がブレイクショットで5番をポケット。
 1番と2番がコーナーに向かって縦に並んでいる。
 緩く撞き、1番を使って2番を落とす。
 2番を、ポケットに向かってまっすぐ撞くと、3番への出が悪い。厚みを作り、適度に力を入れる。クッションで返り、手球は走る。
 しかし走りすぎのため、3番への出は悪く、ポケットできない。

 島田は、3番をサイドに落としたいところだが、8番、9番の配置が気になっている。
 3番をサイドに入れると、7番が邪魔で6番が狙えない。ひねり。ふむ、7番までは良いが・・・。
 そうして6番までをポケットした島田は、テーブルを眺める。
 8番から9番への出しが、微妙だな。
 長い直線上にあり、手球は出しにくい。
 7番をポケットする。
 そして。
 8番はポケットを狙わず、次の澤田が、8番を直接は狙えない場所に手球を残す。

 澤田は口角をあげる。
 セーフティ・・・。

 直接狙いにくい、相手に不利な状況をわざとつくる。
 上級者のゲームでは、セーフティ合戦となり、どちらかがミスをするまで、セーフティを作ることが繰り返される。澤田は、セーフティ返しができるほどではなかった。
 8番に当たらないことでフリーボールを与えてしまうことは避けようと、ポイントを利用してイチかバチかで撞いてみる。
 手球は8番にあたるがポケットはできず、次の島田を有利にする。

 島田は8番をサイドへ、続けて9番をコーナーへポケットする。





 2−1で、島田が勝った。





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