バレンタインデー
バレンタインデー。
この日にチョコレートを渡すことに意味がある。
年が明けてから、今年こそは直江に渡したいと思ってきた。
直江はいつも、わたしのことを気にしてくれて、大切にしてくれる。わたしにはもったいないくらいで、もしかしたら直江にそんなふうにされるのは、分不相応なんじゃないか、とさえ思ってしまう。
日々のお礼をしたいと思ったまま、もう何度直江の誕生日を普通に過ごしてしまったことだろう。直江はわたしの誕生日にはいろいろな企画を用意してくれているのに。ちなみにクリスマスは直江に主導権があり、わたしが何かをやろうという余地はない。
実家はお寺で、兄弟は不動産屋というお坊ちゃん。やることなすことソツなくて、スマートで、格好悪いところなんて見当たらない。おいしい味もよく知っていて・・・そんな人にわたしが何をしてあげられるのだろう!
そう、直江には既製品のチョコレートなど、渡すことはできないのだ。いくら高級なものでも。
そして、バレンタインデーをむかえてしまった・・・。
ゆうべ、冷蔵庫からおもむろに小麦粉や卵、バターを、棚からココアや砂糖をとりだし、それらをしっかりまぜ、とりあえず、チョコレートブラウニーを焼いた。常備してあるラッピング用の袋に入れ、リボンを結んだ。
こんなものを作ることしか、わたしにはできなかった。
今日のデートも、きっと直江が何か企画してくれている。
アニバーサリー男にはかなわない!
しかし、それに甘えている自分がいる?と思ったりもする・・・。
「直江・・・。いつもありがとう。これは、ほんの、気持ちです」
そう言って、わたしはブラウニーを差し出した。
「美弥さん・・・」
直江は袋を受け取り、リボンをほどいた。
取り出した中身をじっと見たまま何も言わないため、わたしは不安になった。
「あ、あのっ、直江がしてくれていることがこんなんでバランスとれるとは思っていないのっ。でも、今、わたしにはこんなお菓子を作ることしかできな」
全てを言い終える前に、直江に抱きしめられていた。
「美弥さん・・・あなたが、そのままのあなたがいてくだされば、それでいいんですよ。・・・それに、お菓子を作れるなんて、すごいことではないですか」
「でも、直江がいつもいろいろなことでわたしを喜ばせてくれるようなこと、わたしはできていない」
「あなたが感じてくださっている喜びと同じ喜びを、私は今感じていますよ。同じです」
そう言って、直江は優しいちづけをしてくれた。
直江は、そのままでいいと言ってくれる。直江が言ってくれるのだから、信じてみようと思う。
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