ホワイトデー2006 Side直江
直江は美弥をエスコートして、レストランを出た。
「ごちそうさまでした」
美弥はお礼を言って、頭をさげた。
「貴方がおいしそうに食べてくれるので、私としても、ごちそうのしがいがあります」
「シーフード、好きなの」
「知っています。貴方の部屋には、いかせんべいやえびせんべいなんていう、海のものを材料にしたおやつがたくさん置いてありましたから」
直江はそう言って笑った。
「へ、ヘンですか?!」
いえ、と否定しながら、それでも直江は笑っていた。
-----本当にシーフードが好きな方なのだ。
美弥は、何か思い出したかのように、直江に聞いた。
「ねえっ。直江は、アンモナイトは食べたことある?」
「え?」
「アンモナイト。あれも、エスカルゴみたいに中からほじくりだして食べるのかしら?」
美弥は、ほじくりだす動作をしながら直江の答えを待っていた。
「美弥さん」
「今のレストランのメニューにも、アンモナイトって、なかったでしょ? なかなかないのよね、アンモナイトって」
-----なかなか、どころか、絶対にない。
「美弥さん」
美弥は、直江に向かって「なに?」というふうに首をかしげた。
「アンモナイトは、恐竜がいた時代よりもはるか昔、古代デボン紀にいた生物なんです。それがどういうことかわかりますか?」
「えーっと」
「今は化石としてあるだけなんです」
「化石? じゃ、じゃあ、海の中を泳いでいるわけでもないの?」
「いた、ですね。といいますか、泳いでいたのではなく、浮遊していた、ですね。ちなみに、アンモナイトは貝ではありません。タコやイカと同じような部類ですね」
美弥が本当に残念そうにしている様子を見た直江は、あっさりとその存在を否定してしまったことを、少し悔やんだ。
「つまり、わたしは直江に、バカな質問をしてしまったのね」
「えっ、い、いえ」
そっちでしたか、と直江は思い、こめかみを押さえた。「しかし・・・一体どこから、アンモナイトが食べられるものだと?」
「漫画でね、海の中で村人がアンモナイトと遊ぶの。それで、アンモナイトの塩焼きみたいなのを作って食べてたのよね・・・」
-----あらゆるところから得た情報を疑わずに摂取してしまっている。・・・だまされてはダメですよ。
直江は美弥の腕をとり、そっと抱き寄せた。
-----美弥さんの頭の中は、どうなっているのだろう・・・。
美弥の髪の毛をすきながら、美弥の全てを知りたい衝動にかられた直江は、抱きしめる腕に力を入れた。
「直江・・・?」
「また、食べましょう」
顔をあげ、にこりとする美弥の唇に、自身のそれをそっと重ねた。
月刊ナカジン表紙へ戻る
妄想ページのトップへ