嫉妬








 あいつはベンチに座ってぼーっとしていた。



 「ちあきぃー!」

 オレを見つけた瞬間にガラリと変わるその笑顔とオレを呼ぶ声に、オレは弱い。待たせたなと思って、抱きしめたくなる。

 「待たせたな」
 「ううん。今来たところだよ」

 頬を赤くしていても、こいつは嘘を言う。嘘しか言わない。大丈夫じゃないのに「大丈夫」とか、平気じゃないのに「平気だよ」とか。たまには素直に、「待った」とか「辛い」とか言ってみろ、と思う。ま、こいつが言えない分、オレが察してやれるから、いいんだけどな。けど、たまには、言われたい。

 「さてと、冷たいところにおじょうさんを待たせたからな。とっとと焼き鳥、食いに行きますか」

 「やった♪」

 そう言って、にっこりする美弥は、やっぱりかわいい。

 「昨日もね、焼き鳥食べたんだよ」

 「はぁ?!



 オレの勢いに驚いたのか、美弥は目をパチクリさせていた。



 「・・・誰と食ったんだよ?」

 「高耶」

 「はぁ?! なんでおまえが景虎と焼き鳥食ってんだよ! 今日オレと食う約束してただろ!」

 「だって、昨日偶然、高耶に会って、腹減ってるからつきあえって、それで、何が食べたいって聞くから、焼き鳥って答えたら、じゃあ焼き鳥屋に行くかって、連れてってくれたんだもん・・・」

 「アホかっ、おまえは!」

 オレはそう言うと公園を出ようと歩き出した。

 「ちょ、ちょっと、待って、千秋・・・」

 美弥が追いかけてくるのがわかった。



 「うわっ」

 オレが急に止まったせいか、背中に美弥が当たってきた。
 振り向き、美弥の顔をみれば、なんでオレが怒っているのか理解できていないのがわかる。


 「なんで怒ってるんだ、って顔してるな」

 「な、なんで・・・?」

 「オレと食いに行く約束してただろっ。なんで景虎と行くんだよっ」

 「千秋とも食べに行けばいいじゃん」

 「ともぉっ?! ばか虎の2番手なんて、やってられっか」

 そう言ってオレはまたさっさと歩き始めた。
 オレが本気で歩けば、美弥はついてくるのがやっとだ。オレから離れまいと、必死に歩いているのが、、、、、いとおしく思えてしまうから、いけない。
 ・・・オレは美弥に甘い。
 だから、ばか虎の2番手になんかなるんだ。


 おまえが嬉しそうに食べるところが見たかったんだ。何でオレより先にばか虎に見せるんだよっ。
 ったく・・・。





 「千秋っ! ごめんっ!」

 美弥がオレの背中に叫んだ。

 「千秋は、あたしが食べたいって言っていたのを覚えてくれていて、それで、一緒に食べることを楽しみにしてくれてたんだよね。・・・ごめん」

 たぶん、美弥は今にも泣きそうな顔をしているに違いない。



 ・・・美弥がわかってくれただけでいいか。みっともない嫉妬をしたな、オレ。

 オレは美弥の方へ向き直った。
 やっぱり、涙目になっていた。

 「美弥っ! 焼き鳥、食いに行くぞ!」

 オレが腕を広げると、美弥はまっすぐ飛び込んできた。

 「ごめんな」

 そう言いながら、頭をなでてやる。





 やっぱりオレは美弥に甘いし、美弥に振り回されている。
 でも、こればっかりは、仕方ねぇ。





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