彷徨うこと幾夜








 明日にはいないかもしれないから、約束したことは守ろうとしていた。
 明日を信じることは、できなかった。
 別に、死に急いでいるわけではなかった。
 人は、突然に逝ってしまうから−−−−−−−−。





 守りたいモノが、増えていた。
 それは、人であったり、目に見えないものであったり、いろいろな形で在った。
 それらを守るために、無茶をする。自分を犠牲にして。
 それは、他人から見れば痛々しくもあった。守りたいものが増えていくことに戸惑っているように見えた。
 「あなたも、誰かの守りたい人だから」
 自分を大切にするように、とその人は言った。




 誰かの守りたい人であるということを、思ってはみても、信じることはできなかった。
 誰かを守りたいけれど、守りたいと思ってくれる人がいるなんて・・・。
 差し伸べてくれる手は、ある。そしてその手を掴んできた。
 心のどこかで、そんなことはわかっていた。そして、差し伸べられる手のありがたみも、ぬくもりも、全て、わかっていた。
 だから、余計に。
 それに甘えてはいけないと思っていた。
 その差し伸べてくれる手がなくなった場合のことを考えるのだ。心の中で知ってしまっているぬくもりに上書きしようと。



 誰よりも先に逝きたいと思う。
 残していかないで、と思う。
 何も失えないほど、いつの間に弱くなってしまったのだろう。
 何かと引き換えに別の何かを得て歩んだ過去を、懐かしく思う。


 命と引き換えられるものは・・・?





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