片思い








 あー、眠れない。
 普段なら、「あー、眠れない」と一瞬思っても、5分後ぐらいには寝入っちゃって、目覚まし時計に起こされるんだけど。

 あー。
 マジ顔した不二くんから「放さないから」なんて言われちゃった。
 もちろん、嬉しいし、そうして不二くんがわたしに心を開いてくれたことはとてもいい!
 でも不二くん。
 「放さないから」って言った後、すぐにわたしを放しちゃったじゃん・・・。中途半端にわたしを燃えあがらせちゃって・・・。


 携帯を開いて、これまで不二くんからもらったメールを読み返してみた。





 う〜ん、寂し。寂しいじゃんよ。寂しーよっ!
 読めば読むほど会いたい度は増してゆく。








 頭を冷やそうと、まだ肌寒い外に出た。向かったのは青葉公園。ここは不二くんと、ときどき来るところ。


 いつものベンチに座ると、不二くんの声が聞こえてくる・・・。



 不二くんにメールを送った。

 『勝手に青葉公園にいるよ。もし大丈夫なら、会いたいな』










 ざざざざと葉が揺れる音がするだけ。夜の闇は怖くない。
 不二くんにどんな顔をして会おうか。思い巡らしてみるけれど、きっと、にへら〜とした失敗顔を向けるだけなんだよね。
 何を話そうか。考えて貯めておいても、悲しいことに、会うと忘れちゃうんだよね・・・。








 どれくらい待っただろうか。逆光でわかりにくいけど、眼鏡をかけた不二くんがこちらに歩いてくるのはわかった。
 えっ、眼鏡・・・?

 「て、手塚っ?!」

 眼鏡をかけた不二くんではなく、眼鏡の手塚がやってきたので、素っ頓狂な声をあげてしまった。

 「な、なんで?」

 「青葉公園にいるとメールを送ってきたのは澤田だ」

 「え」

 「どうしたら不二と手塚を間違えるのかわからないが」



 送ったメールの文面を思いおこすと、恥ずかしさで顔が赤くなる。



 「な、なんで来るのよっ!」

 「夜中にご令嬢が一人でこんなところにいるもんじゃないぞ」

 「だったら、気ぃきかせて、不二くんに連絡してくれれば良かったのに! あたしから間違ってメールが来たって!」

 「今オレは理不尽な怒られ方をしていると思うが?」



 はい。わたしは逆ギレしました・・・。


 「不二に連絡をとるか?」


 わたしは首をふった。
 手塚と会ったことで、熱い気持ちが冷えてしまった。いや、手塚が悪いわけではなく、自分のバカさ加減に呆れたのだ。
 しかもこの状況はなんだ・・・?

 「帰る・・・。ごめんね、手塚。わざわざありがとう。この、"夜の公園で男女が忍び会っている図"は早く消した方がいいからね」

 わたしは力なく言った。
 不二くんが勘違いをする、と心配するわたしの顔が気になったのか、手塚が言った。

 「不二は何も疑りはしない。ただオレがちょっとどつかれるだけだ。さて、送るぞ。ここで別れたが最後、暴漢に襲われて澤田が行方不明、2〜3日後、山中で死体で発見されるということにでもなったら、そのことの方が不二から恨みをかうだろう」

 「勝手に人を殺さないでよっ! 手塚がそんな妄想膨らます人だとは思わなかったよ」

 「妄想ではなくて、予想、だ」


 ふ〜。
 わたしが公園に一人で来て、不二くんを呼び出そうとした理由(わけ)も、手塚にはお見通しのような気がした。


 「不二は澤田のことを本当に大切に思っている」

 またこいつは真顔でそんなことを言う、とびっくりした。

 「その大切にする気持ちが、澤田には物足りなく感じるか?」



 て、てめぇは何でそんなところまでわかるんだよっ、とやはり嫉妬心を燃え上がらせるのだった・・・。
 




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