ランチタイム side 乾貞治








 今日は理科室で、海堂とお昼を食べることにしていた。僕が実験をしたいと言ったら、海堂が「見ていたい」と言ったのだ。
 僕と一緒にいたいって、素直に言ってくれたら嬉しいのに。



 4時限めは自習だったから、理科室の使用許可をとって、実験は始めていた。本当に実験だけで昼休みが終わったら、海堂がかわいそうだから。
 何より、最近一緒にいられる時間が少なくて寂しかったのは、僕だから。

 チャイムが鳴って間もなく、澤田さんがやってきた。
 なぜ、理科室へ?と思ったが、まあ、いいか、と実験を続けた。
 澤田さんは僕がやっていることに興味があるみたいで、じーっと見られていた。普段、僕は人を観察かつ分析しているが、される身になってみると・・・照れるものだ。
 シンとした理科室に、コポコポという液体の音が響いた。
 澤田さんとは会話をしなくても、空気が重くならないことに驚いた。居心地が悪くない。むしろ、良かった。澤田さんは、周りにそう感じさせる人なのだ。そしてそれがスーパーな状態になった空気を、不二だけが独占しているのだろう。
 不二は、澤田さんが僕に限らず誰かと話をしてにこやかに笑ったりするのが、好きではないんだと思っている。だから、あまり澤田さんとは関わらないようにしていたが、不二を分析するには澤田さんと関わった方がおもしろいデータがとれるかもしれない。が、「美弥から僕のデータをとろうとしても、無駄だよ」と不二に言われるに違いないな。

 もうすぐ海堂が来るな、と思ったら、澤田さんが、ドリンク剤を飲みたいと言った。
 開発中であることを理由に、遠慮してもらった。
 僕の作る特製栄養ドリンクを飲み干し「なかなかイケる」と言う不二とつきあっている澤田さんだから、きっと飲めただろうけれど、完成ホヤホヤのドリンク剤は、1番に海堂に飲ませるって、決めていたからね。



 「海堂!」

 いつの間にか弁当を手にした海堂が入口に立っていた。

 澤田さんが振り向いた瞬間、弁当をサッと後ろに隠した海堂は顔を赤くして、かわいいと思った。





 澤田さんは勘の鋭い人だった。ま、だから不二の隣にいるのだろうけれど。
 うろたえながら理科室を出ていってしまった。



 グラスに注いだドリンク剤を、海堂に見せ、

 「海堂。新しいドリンク剤、できたてのホヤホヤを君に飲ませてあげるよ」

 「えっ」

 「澤田さんが飲みたいって言ったんだけどね。やっぱり1番は、海堂、君でしょ」

 「さ、澤田先輩に飲ませとけば良かったじゃないっスかっ! オ、オレ、別のとこでメシ食うッスよ」

 「大丈夫。君が飲んだら、その後味を打ち消すくらいの、濃厚な口付けをしてあげるから」

 海堂が真っ赤になるのを見て、自分の気持ちが逸るのを楽しむ、昼のひとときだった。





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