ファースト・キス
「朝露にぬれた水仙の花よりも、貴方の笑顔に、私の心は奪われるのです」
ど、ど、どうしてそんなことをサラッと言うのぉ?!
美弥は恥ずかしさのあまり、タオルケットを深くかぶった。
直江は、風邪をひいて寝込んでいる美弥を見守るように、ベッド脇の椅子に座っている。
「顔を出してください、美弥さん」
直江に名前を呼ばれると、美弥のほおはタオルケットの下でも自然と緩む。自身から出る熱と、タオルケットが顔にかかっている息苦しさとで、美弥はそっと顔を出した。
「ほら、タオルがずれてしまっている」
そう言いながら直江は、おでこからずれたタオルを直した。
「まだまだ体は盛んに熱を出していますね。とにかく、安静に、休むことが何よりです」
休ませなければいけない気持ちと、弱っている美弥を抱いてしまいたい気持ちとが、直江にはある。
-----熱にうなされている貴方が艶っぽい。
抑圧している感情で重くなった気分を払拭するかのように、直江は美弥に話しかけた。
「何か欲しいものはありますか? 買ってきましょう」
「・・・ぇ」
「何ですか?」
「なお・・・ぇ」
心を打たれた直江の手は、自然と美弥の頬に伸びた。
-----熱にうなされているせいだろうか? 普段の美弥さんからはそんな大胆なセリフは聞けない。
が、直江の手は、躊躇するかのように一瞬止まった。
戦場では一瞬の気の迷いが味方に大損害を与え、戦況が変わるということを、直江はよく知っているはずなのに。
-----熱く、濃厚なキスを・・・そしてその先に・・・この状態で進んでもいいのだろうか。
「美弥さん・・・?」
美弥の呼吸が妙に落ち着いていることに気づいた直江は、美弥の顔に自らの顔を近づけた。
-----寝息・・・だ。
いい感じになるかという直前までいったのに、おあずけをくらった感の直江は、目を細め、柔らかい笑みを美弥に向けた。
-----まだ、キスすらしていない・・・。
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