ラブストーリーは突然に








 「美弥ちゃんっ」
 「あ、忍足先輩」
 「重そうやな。持ったげる」


 そう言って先輩は、ヒョイと、わたしの手からダンボール箱を奪った。
 『持とうか?』じゃなくて『持ってあげる』というのが先輩の優しいところ。


 「ありがとうございます」
 「まーた跡部のヤツ、こんな重いもん、美弥ちゃんに持たせとるんかいな? 鬼やな」
 「でも部長は、わたしに絶対無理なことはやらせないですよ。そういうところ、人を見てますよね。伊達に"俺様部長"やってるわけじゃないって。だから、頑張らないと、って思うんですけど。って、わたし、先輩になんてコトを!」
 「かまへん、かまへん」

 先輩は片手をひらひらさせながら、笑ってそう言った。

 「そやけど、エライなぁ、美弥ちゃんは。ちょっと妬けるわ・・・」
 「?」


 『妬けるわ』の意味がわかりかねた。返事ができないので、ニコリと笑顔を返した。

 話をしながら、しかもダンボールを持ってもらっていると、あっという間に部室に着いてしまう。
 ダンボールは部室のテーブルの脇に、置いてもらった。

 「そや。昨日の夕方、美弥ちゃん、教室で寝とったやろ?」
 「え・・・」
 「髪の毛が風に揺れて、頬にかかっとったから、かきあげといたで」
 「はっ?」
 「あんま学校で無防備なのはあかんで」
 「な、なんで学校内でそんな用心しないといけないんですか?!」
 「学校内には、美弥ちゃん狙うてるヤツ、ぎょうさんおるで。あかん、あかん」
 「えーっと・・・言いたいことはいろいろあるんですが、何から」
 「美弥ちゃん、オレと付き合わへん?」
 「え・・・」



 この、なんだか異様に早い展開に、思考と感情とがちぐはぐだった。



 「美弥ちゃんのこと、好きやねんけど」





 まさか、今日、誰かに告白されるとは思ってもいなかった。こんな、唐突なものなのだろうか・・・?





 「な、な、んで・・・今日・・・?」
 「へ?」


 先輩は目をぱちくりさせたかと思うと、笑いだした。


 「あははははははっ! 美弥ちゃん、やっぱ、おもろいなぁ〜」
 「やっぱ、って、どういう意味ですか?!」
 「そこに食いついてくるかいな。あはははは」




 先輩はひとしきり笑った後で、まじめな顔をした。

 「なんで、今日、やろな? オレん中で気持ちが盛り上がってしもたんやな、二人きりやし。臨界点を超えたんやな、今」



 じっと、見つめられた。



 先輩のことは、わざと意識しないようにしてきた。


 「先輩、誰にでも優しいし、モテるし、わたしなんか・・・ッ!」


 先輩がわたしの腕をつかんだ。


 「オレは、そのまんまの美弥ちゃんが好きなんやで。そういうこと言う口は」


 ッ・・・それは突然のキスだった。
 腕をひっぱられたかと思ったら、ありえないキスをされ、息苦しさでどうかなってしまうかと思った瞬間、開放された。
 先輩の両手がわたしの頬を包んだ。
 その一連の動作が滑らかで。


 「美弥は?」


 名前を呼ばれ、今さらながら、トクンと胸がときめいた。


 「先輩が・・・好き
 「いい子や」


 先輩に抱きしめられ、頭を撫でられた・・・。
 人生最大のできごと・・・。





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