Inside








 「手塚。もう少しで終わるから、ちょっと待っててね」

 委員会の書類をまとめている澤田が、早く一緒に帰りたいと思っている空気を察してか、言った。

 「あぁ・・・」

 赤くなっているだろう顔を、窓の方へ向け、うつむかざるを得ない。
 澤田に優しく言われると、擁かれている気分になる。

 「澤田は・・・お姉さん、だな」
 「えぇ?」

 澤田は笑った。

 「いや・・・」
 「確かに、わたしは三人姉妹の一番上だけど。・・・手塚は一人っ子なのよね?」
 「あぁ」
 「一人っ子の人がうらやましい時期があったわよ。全て自由でしょ? 全て自分のものってゆうか、独占できるってゆーか。ウチは常に3人で分けることが基本だったから」
 「それは良かったことだと思うぞ。家庭の中に一つの社会が生まれているというのは・・・いい」
 「・・・そっか」





 「さて、終わった。手塚、お待たせ。帰ろっか」
 「あぁ」

 恥ずかしい。
 声が明るくなったのが、自分でもわかった。
 オレは、澤田を待つ間とりかかっていた世界史の問題集をかばんにしまった。

 夕焼けが空を赤く染め、町にオレンジ色のフィルターがかかっているかのように見える夏の放課後、澤田と二人で歩くのは嬉しかった。
 校門を出て、オレたちは手をつないだ。

 「どこか、寄っていくか?」
 「手塚は、何食べたい?」
 「オレは・・・オレより、さわ・・・美弥は何が食べたい?」
 「ドーナツ?」
 「じゃあ、あのDELIに寄っていこうか」
 「うん!」

 その笑顔につられ、思わず澤田の頬に触れていた。
 言葉を省いて通じる嬉しさ。オレの内側が満たされる。
 あー、心地よい時間が、増えている。

 「手塚・・・」
 「美弥」

 澤田のあごを上向かせ、唇を重ねた。





 ・・・お姉さんな澤田に対して、ささやかな優越を感じた。





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