縛られし者








 先輩はソファーに座って、雑誌を読んでいる。毎月欠かさず買っているファッション雑誌だ。この雑誌を読んでいるときだけは、邪魔をしないでほしいオーラを感じて、わたしは隣でおとなしくしている。
 けれど、久しぶりに一緒にいるのに、発売日と重なるなんて、ツイてない。
 近くにいると、ウズウズしてきてしまう。


 先輩の方に体を向け、正座をする。


 「先輩っ」
 「なんや?」

 反応してくれるけど、先輩の顔はこっちを向かない。

 「土曜日、遊園地に行きたい」
 「ええよ」

 やったっ!


 嬉しい!



 でも・・・ちょっと不審になり、雑誌を読む先輩の横顔をじっと見た。





 先輩がわたしの方を見た。

 「どないしたん?」
 「ん?」
 「無反応やから」
 「子供っぽいって、思わないですか?」
 「・・・なんや、美弥。オレのこと試したんか?」
 「違います。先輩はいつも、わたしの行きたいところに行ってくれるから」
 「美弥が、オレがあんま行きたない場所は言わへんからや」
 「もしわたしが、先輩があんまり好きじゃない場所を提案したら、一緒に行ってくれるんですか?」
 「ええよ」

 わたしは瞠目して見た。



 「美弥がどうしても行きたいからやろ? せやから、えぇよ。それに、普段の美弥は断られるのを恐れて言い出せないクチやしな」



 にこりとされ、わたしは固まった。



 「じゃ、じゃあ、そういうときには、最初はイヤだって言ってくださいね。そこは、最後の切り札として、とっておくことにしますから」
 「ええねんて。どうしても行きたいって、たまにはワガママ言うてみ」

 雑誌を脇に置いた先輩の手がわたしのうなじをなでる。

 「美弥・・・かまってほしいんか?」

 瞬時に顔が赤くなる。

 「・・・わたしは一所懸命なのに、先輩は、余裕・・・。なんか、悔しい」
 「それは、美弥がかわえぇからや」

 えへ・・・。
 頬をなでる先輩の優しい手、好き。
 自然、目を閉じてしまう。





 ごまかされた気がして、ハッと目を開ける。
 言葉を告げようとしたのをさえぎるように、先輩は言った。

 「美弥。悔しがることなんてなんもあらへんで。美弥はそのまま素直でいればええねん」

 先輩の優しい口付けはわたしの気持ちをも解かす・・・。










 ん・・・。

 ベッドサイドに目をやった。

 22時・・・。

 ポフンッ。
 枕に顔をうずめ、眠る先輩の横顔をじっと見る。





 翻弄されている。先輩の全てで。
 常に一歩先をゆく先輩。全て見透かされているような。
 悔しい。追いつきたい。
 でも先輩にいなされて。
 だから悔しくて。





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