雨上がりのキス








 「いやぁーーーーーーっ!」

 「少し落ち着け」

 「だって、かみなっ、きゃっ」

 遠くで雷が鳴り始めるや否や、美弥は自分の部屋からリビングに移動し、雑誌を読むリョウの隣にただ座っていた。リョウの隣にいても、「怖いものは怖い」と声をあげる美弥だった。





 雷雲が真上にきたのか、雷はいっそう大きく響くようになり、雨粒は勢いよく窓を打っていた。





 「ひゃっ・・・」

 鋭い光を見た美弥は、これからくるものを予知したかのように、凍りついた。


 「うわーーーーーっ!」

 空全体がうなりをあげたかのような雷に、美弥はリョウの腕にしがみついた。

 雷そのものよりも美弥の勢いに驚いたリョウは、窓の方にチラと目を向けた。


 「今のはすごかったな」

 「な、なんでそんな平気にしていられるの、リョウ?」

 「じゃあ聞くが、雷くらいでなんでそんなに怯えるんだ?」

 「おへそをとられる」

 「へ?」

 「それに、打たれたら死ぬ!」

 珍しく強気に言う美弥に呆気にとられ、またその内容に、リョウは笑った。

 「おへそをとられるって、どういう意味だよ? とられたらどうなるんだ?」

 「おへそから電流が流れて、感電死するのよ、きっと」



 「・・・突っ込むところはいろいろあるんだが、この際それは置いといて・・・雷に打たれるのは、ゴルフ場でゴルフをしているとか、山を登っているとか、体が無防備な状態の時だけだ」
-----ま、おまえはオレの前では無防備すぎるくらいだから、そのうち打たれるかもしれないな。なんなら、オレが一発♪

 「そうなの?」

 「室内にいる限りは、まず大丈夫だ」

 それでも美弥は、雷がなるたびにびくびくしていた。















 「・・・もう、雷の音も小さくなってるし、雨も小降りになってきたみたいだぜ」

 そう言ってリョウは窓の方を指差した。

-----ま、くっついていてもいいけどな。










 「あ・・・」

 リョウが立ち上がり、美弥は思わずリョウの洋服をつかんだ。

 「トイレだよ。なんだ、ついてくるか?」

 「い、いいっ!」

 美弥は、上目遣いにリョウを見ながら首を振った。

-----まーた、顔、真っ赤にしやがって。

 リョウは目を細め、口角をわずかにあげた。
 ソファーに座っている美弥の正面に膝をつき、両手で美弥の頬を包み込んだ。

 目を見開いた美弥だったが、リョウの手の暖かさに心地よさを感じて、自然と目を閉じていた。





-----大きな手・・・夢の国にいるみたいだなぁ〜。










 「んっ・・・!」

 柔らかいものが唇に触れ、美弥は驚いて目を開けた。
 目の前にリョウの顔を見て、反射的に離れようとしたが、リョウの力強い手で固定された顔は、美弥の自由にはならなかった。

 リョウは、やっとつかんだこの瞬間、とばかりにキスをしていた。親鳥がヒナにえさを与えるかのように。










 美弥はえさをもらうヒナのように必死だった。










 やがて、リョウは唇をそっと離した。
 美弥は呆然として、ただ、リョウを見つめていた。



 「キスのときには目は閉じるんだぜ」

 リョウは美弥の頭をそっとなで、抱き寄せた。

 「おまえのことは、あいつの妹であるという以上に、大切に思っている。あいまいなのは、もうおわりだ」





 美弥は、おずおずとリョウの背中に腕をまわした。

 「あたしにとっても大切なリョウ・・・」

 ささやくような美弥の声をかろうじて聞きとったリョウは、細い美弥の体を優しく抱きしめた。





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