ラブラブ初詣
年末年始の参拝客数ランキングで上位に入るこの神社では、警察による整備が行われ、参拝する人波、帰る人波とがしっかり分けられていた。初詣客は道路いっぱいに列をつくり、少しずつ、山門内から本堂内へと進めるようになっていた。
美弥とリョウは、まだ山門にすら入ることができず、じりじりと進む列の中にいた。
「なかなか進まないね」
「あぁ。なになに・・・ここからあと30分くらい、かかるらしいぜ」
「30分ねぇ」
「まったく警察はいつからこんなサービスやるようになったんだ? 冴子のヤツも、ヒマしてるんだったらオレとの約束、はたしてもらうぞっ」
「何の約束よ」
「ん? まぁ、いろいろとな」
ふと、リョウが美弥の手をとった。
美弥はリョウの顔を見上げた。
「ほれ、お子様は迷子にならないように手を握っとけって、アナウンスしてっぞ」
「わたしは子供じゃないよっ!」
「この混雑だ、はぐれるよりはいいだろ。おとなしく手ぇつないどけ」
美弥は、しっかり握られている感覚に悪い気はしていなかった。むしろ、嬉しいような、恥ずかしいような、心ときめく感覚を持っていた。
リョウは一際背が高い。日本人にしては体格も良く、どこにいても目立つ。人混みで美弥がリョウと離れても、リョウの姿を探せば良かった。が、美弥が探さなくても良い状況を先に作ってくれたことが、美弥は嬉しかった。
本堂に上がる階段の前にある規制が解かれ、二人も階段をあがった。一定人数が一斉に賽銭箱へ向かうために、身動きができなくなる。
「うわっ」「きゃー」「やっ、動けない!」「いたっ」
押し合いへし合いの状態で、美弥も前後左右から押さえつけられる形となり、なかなか賽銭箱へは進めない。
「美弥っ」
「うわっ」
強い力で引っ張られた美弥は、賽銭箱の前でリョウに抱きしめられる形となった。
「あ、ありがと」
「ちゃんとお参りしとけよ」
美弥が手を合わせている間、リョウの腕は美弥の腰を支えていた。
「リョ、リョウ、ちゃんとお参りした・・・?」
「してるぜっ」
そう言ってリョウは美弥の頭に口付けた。
「もういいか?」
「うん。ココ、出よう」
賽銭箱に向かう人の波に逆らい、また、出口へと向かう波に乗り、二人は本堂を後にした。
「去年のお礼はしたし、今年のお願いもしたし、初詣に来れてよかったな」
「美弥」
「ッ!」
リョウは、振り向いた美弥の腕をとり、抱き寄せた。
美弥の顔を上向かせ、子供を愛しむ親鳥のように、優しく、深い口付けをした。
「去年悪かったことは、オレが全部吸ったから、大丈夫だ」
「リョウ・・・」
「目は見開かないで閉じろって、言ってるだろ?」
美弥の顔が赤くなる。
「ま、美弥らしくて、それもいいぜ」
リョウはポケットに手を入れて歩きだす。
美弥はその背を追ったり、引き止めたりする。
露天が立ち並ぶ参道を歩く二人を柔らかい陽射しが包んでいた。
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