信頼
シャワーを済ませた忍足が部屋に入ると、顔を真っ赤にした美弥が寝転んでいた。
これがオレの愛の烈しさゆえやったらえぇんやけどなぁ、と忍足はつぶやいた。
「美弥。また酒、飲んでるん?」
「ごめ〜ん、一人で先に飲んじった〜」
「別に一人で飲むこと自体はえぇわ。無理せぇへんとき、そんな飲める体じゃないねんから」
「だってヤなこと忘れられるもーん」
「もーん、て・・・。一時的な逃げでしかないことくらい、美弥もわかっとるやろ?」
「だってぇ〜」
「ほら、やめときぃ」
そう言って美弥の手から缶を取り上げた。
「オレに愚痴ったらえぇねん」
「だって〜、侑士、愚痴なんて聞きたくないでしょ〜? あたしがヤな人になってるの、自分でもわかるし〜」
「せやかて、どこかでガス抜きせぇへんと、美弥、詰まるで? ガス抜きは誰にでも必要なんやで」
「じゃあさじゃあさ、あたしは侑士に愚痴ればいいけど・・・侑士は? 侑士はどこでガス抜きできるの?」
「美弥がおるやん」
クッションを抱えてゴロゴロと動いていた美弥だが、目を見開いたまま動きを止めた。
「何、キョトンとした顔してんねん、自分? そんなんな、一方通行じゃないねんで。お互いに、与えたり与えられたりしてんねんて」
忍足は、缶に残っている酒を飲み干した。
「オレのこと、もっと頼ってもえぇねんで、美弥は。ナンも気にすることあらへん。美弥の全部が好きなんやから」
うるんだ瞳で見つめられ、忍足はベッドルームへ運びたい衝動にかられる。
しかし、美弥が持っている根本の問題を放置しては、何も変わらない。
「侑士・・・」
先にシャワーを浴びていた美弥の体からボディソープの香りが微かにたつ。
すがるような目、赤らんだ顔を向けられ、名前を呼ばれ。
忍足は美弥のあごに手をそえ、深く口付けた。
息苦しそうにする美弥を開放し、さっと抱き上げた。
「わっ!」
驚いた声をあげた美弥に構うことなく、笑いながらベッドルームへと連れて行った。
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