静かな夜








 「あ゛・・・」

 眠い目を指先でおさえながら二階にあがった美弥は、自分の部屋の前で立ち尽くした。



 昼間、操縦不能となったセスナがマンションに突っ込んだ。幸い、操縦していた女性に怪我はなかったが、マンションは、美弥の部屋が壊れる被害にあっていた。
 セスナは、突っ込んだままの状態で、博物館に置かれた展示品のように、冷たくあった。





 「しばらくはオレの部屋で寝るんだな」

 背後から声をかけたリョウは、美弥の体が一瞬こわばるのを見逃さなかった。

 「うぅ〜、外からの風が冷たいぜ。まったく、ウチをこんなふうにしやがって。空き巣にでも入られたらどうするんだ。なぁ?」

 「う、うん・・・」

 「・・・寝るぞー、美弥」

 「う、うん・・・」

 美弥はリョウの後について行った。





 パタン。





 ドアを閉めた音が薄暗い部屋に響いた。
 普段ならどうということのないことだが、リョウの部屋に二人でいるという状態に、美弥は思考が止まっていた。

 「これ、おまえの毛布な」

 「う、うん・・・」

 リョウはクローゼットから出した毛布をベッドに置くと、ドアの前に立ち尽くす美弥を尻目に、ベッドにすべりこんだ。ベッドの半分以上のスペースを空け、美弥が寝る方に背中を向けると、片腕を枕に、横になった。
 美弥は、ゆっくりとベッドの方へと歩いた。

 一歩ずつ立ち止まり深呼吸をする美弥の息づかいを聞きながらリョウは、美弥がいろいろ複雑に考えてしまっているであろうことを推測していた。

-----やれやれ、右手と右足が同時に出る行進みたいなぎこちなさだな。





 美弥はそっとベッドに入り、横になった。















-----あいつの心臓の鼓動が、伝わってくるぜ・・・ったく・・・。




















 美弥は背中を向けて寝るリョウのシャツをひっぱった。

 「ん? なんだぁ?」

 リョウはそのままの姿勢で、目を閉じたまま、応えた。

 「なんでそっち向いて寝るの・・・?

 「左を向いて寝るのが性に合ってるんだ」





 「背中向いてるの・・・・・・ヤダ

 リョウは美弥の方に寝返り、腕をたてて頭を支えた。
 顔を真っ赤にして上目遣いで見つめる美弥の髪の毛をそっとすいた。

 「安心して寝な。手は出さないから、たぶん

 「ほんとに?

 「ほんとに、たぶん

 そう言ってリョウは、美弥を落ち着かせるかのように、頭をなでた。















 スー・・・。スー・・・。

 「かわいい顔で勝手に寝ちゃいやがって。・・・いったい、どっちなんだよ、おまえは」

 リョウはため息をついた。
 美弥の頬にキスをすると、背を向けて寝た。

 「おまえと向き合って寝ていて、そのままでいられるかっつーんだ・・・」






















 美弥の寝息が、リョウの睡眠を妨げるのだった。





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