サイン








 「もーっ、なんで跡部はテニステニステニステニス、テニスのことばっかなのさっ! そんなならテニスと付き合えばいいじゃんっ!!」



 叫んだ後で、バカなことを言ってしまったと、美弥は思った。
 跡部がカリスマ的存在で部員から一目置かれるには訳がある。飴とムチが的確で、一人ひとりに対するケアがしっかりしている。努力を怠る人間には冷たいが上に上がってくる人間には段階によって相応に接する。放置しているかのように、あるいは上にはい上がってくる人間しか相手にしないように見えるが、実は部員全員に敬意を持って接し、一人の人間として相対している。そして、何よりもテニスが好きで、自らを研磨することに惜しみなく時間を使う。
 いくら同じ部に所属し、マネージャーをしているとはいえ、美弥と接する時間が少ないことは当然のことで、それを仕方がないことと黙認し続けることができるほど美弥は大人ではなく、理性が切れてしまうことがときどきあった。
 そうして、切れた後で、後悔する。・・・・・・嫌われても仕方ない、バカなこと言っちゃったなぁ・・・・・・。



 「テメェとテニスを一緒にした覚えはないが?」



 跡部は美弥の頭に手をのせ、髪の毛をくしゃっとさせた。
 そうして、恥ずかしそうに赤らんだ、うつむき加減の顔をのぞきこみ、口付けた。





 みるみる心が深くなるような、大地に水が吸い込まれるかのようにスーッと心が満たされていく感じを得ていた。
 跡部相手に余裕で付き合うなんて、無理だからっ!
 跡部が数段上を行くことを、美弥はその都度思い知らされる。





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