もっと愛し合おう








 埋まらない年の差を、悔しく思う・・・・・・。










 海堂が一足早く部室で着替えていると、ガヤガヤと部員たちが入ってきた。

 「よぉ〜っ、海堂! 早いなっ」

 話しかけたのは同じ2年生レギュラーの桃城で、顔を合わせればけんかになる二人を、周囲は「けんっかするほど仲がいい」と眺め見ていた。しかし海堂は、本当に相性が悪い人間というのはいるもんなんだと思っていた。

 桃城は無視する海堂の隣に立ち、制服を脱ぎ始めた。

 「お前、最近、調子悪いんじゃねぇーか?」

 他の部員たちがいる前でデリカシーのないヤツだ、と一瞬睨み見た海堂は、無視して支度を続けた。

 「まぁ、最近、3年の先輩たち、忙しそうだからなぁ・・・」
 「ほざいてろっ!」

 海堂はそう言い放つと、タオルを握って勢いよく部室を出た。
 自分が苛立っている理由を同学年の桃城に探られていることを腹立たしく思った。
 「クソッ!」
 ランニングに出ようとすると、なにやら真剣に話をしている乾と手塚の姿が目にした。
 最近、こういう光景を海堂はよく見ていた。参考書だったり、テニス雑誌だったり、そのときどきで持っているものは違うが、勉強を確認しあったり、青学のトレーニングのために話し込んでいるだろうことは海堂にも推測できた。だからこそ、海堂は切なかった。・・・・・・オレの手の届かないところにいる・・・・・・!
 こぶしを強くにぎった。

 「あ、海堂」
 「お疲れッス・・・」
 「あ、待って」

 乾が呼び止めるも、海堂は二人の脇を抜けるように走り、ランニングに出た。



 走っていると無我になる感覚が、海堂は好きだった。そうすることでクールダウンさせることができ、落ち着きを取り戻したことは幾度もあった。苛だったままコートに立ってもロクなことはなく、気分転換をしてコートに戻れば調子は良いことはわかっていた。
 土手でストレッチをしながら休憩をしていると、乾が走ってくるのが見えた。
 海堂は立ち上がった。
 海堂の前まで来た乾の息があがっていた。

 「先輩・・・」
 「やっぱりここに居た・・・わかってることだけど、おまえ、足早いよ・・・」
 「コレくらいで息切らしてどうするんスか」
 「そうだね。・・・海堂に抱きしめてもらうかな」
 「バッ・・・な、なにをっ!」

 乾は海堂を抱き寄せ、その口をふさいだ。

 「ごめん、海堂。・・・最近イラついてただろ? オレが忙しくて一緒に居ることができないし、部が終わっても一緒に帰れないし」
 自分のわがままが乾に見破られていることで自分の幼さを実感し、海堂は顔を赤らめた。
 「でも、それはオレも同じだってこと、忘れないでほしいな」

 海堂は顔をあげた。

 「だから、そういうときには言うんだよ、オレを放っておくな、ってね」

 あー・・・・・・。
 海堂は、身体から力が抜けていく感覚を味わっていた。・・・この解かされる感覚・・・。
 身体の中心から、何か新しいモノがじわりと湧き立つのがわかった。



 また負けた・・・。



 そうして顔を真っ赤にした海堂はうつむいた。





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