誘惑








 「あー、長風呂しすぎたなー。ビールだ、ビール。美弥ー、おまえも飲むかぁ? ん?」

 バスタオルを首からさげ、リビングに入ったリョウは、ソファーで寝てしまっている美弥を見た。

 「美弥っ。・・・おい、美弥っ」

 リョウは美弥のほおを軽くたたきながら声をかけていたが、寝入ってしまったのか、美弥は目覚めそうになかった。

 「ったく、風邪ひくぞ」

 リョウは美弥をかかえると、リビングを出て、階段をあがった。
 壊れた美弥の部屋ではまだ生活ができないため自身の部屋に運び、ベッドに横たわらせると、しばらく美弥の寝顔を見つめた。





 静かな部屋に、美弥の寝息が響く。





 やがて、枕元に腕を立て、美弥の唇に自らのそれを重ねた。美弥が寝ていることを気にするでもなく、気持ちよく重なる場所を求めて、ついばむように、口付けた。



 「・・・ん」

 美弥が、うっすらと目を開けた。しかし、自然にトロンと閉じてしまうため、美弥は懸命に開けようとしていた。

 「寝てな」

 リョウは美弥の両目を閉じるように手で覆うと、唇を重ねた。

 「ん・・・」

 再び深い眠りに入ってゆくであろう美弥に毛布をかけ、リョウは部屋を出た。





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