愛縁奇縁








 三成に言わせると、オレはもてるらしい。
 ふんッ・・・まぁ、否定はしない。しかしアイツ自身がもてることを自分で気付いちゃいねぇ。



 「殿、大学での石田殿はそれは大層人気があるのですよ」
 学部は違うが三成が通う大学で講師をしている黒田官兵衛から、ときどき三成の情報を得ている。官兵衛がいらぬ気を利かせて話すんだが、三成がどんな学生生活を送っているのか、それはそれで興味はある。
 「石田殿はマメでいらっしゃるので、酔っ払った友人の介抱はしますし、そういったときの手際がいいらしいのです」
 コンビニでサッと薬を買ってきたり、友人たちと比べれば細身の割には鍛えているのでらくらくと相手を支えたり、誰かに手伝いを指示したり、リーダーシップを発揮しているらしい。
 そりゃそうだ。小姓時代に叩き込まれた気遣いは伊達じゃない。まあ、アイツの場合にはオレと出会う前から、そういったことができたわけで、だからこそオレはアイツを欲しいと思ったんだが。
 朝鮮出兵で発揮した明晰さ・采配ゆえだろう、大学の研究室でも頼りにされているらしい。教授が参加する学会に泊りがけで同行することも多く、オレは独りで夜を過ごすことが多い。社会人のオレよりも学生のアイツの方が、その行動はいっぱしのデキる社会人っぽい。
 大学の理系の研究室っていえば、アレだな、男所帯だ。
 ヘンなヤツに誘われないか、実は心配だ。

 オレはまっすぐなアイツの目を知っているから、三成が誰彼かまわずなびくわけがないことはよく知っている。でも、そう知っていることと、気持ちとは、常には同じじゃねえ。



 オレが心配しているように、アイツもオレを心配したりするのだろうか?



 三成がもてるのだから主君であるオレも遊べと言わんばかり、結局、オレは合コンに行かされることになった。
 「どうしても殿に出ていただきたいのです。殿がおモテになることもお感じになれ、たまにはよろしいかと。もちろん石田殿には内密にしておきますので」
 どうやら先方から誘いのあった合コンで官兵衛は断りきれない間柄のようだ。


 ってーか、オレは三成と同居しているのに、合コンに誘うか?!


 合コンのお相手は、製薬会社に勤める女性たちだった。簡単な自己紹介から他愛ない話、仕事の話、趣味、プライベートと、広いが浅い話を次から次へと展開する。
 オレをはめた官兵衛は、いつの間にか、女性を連れて合コンを抜けだしていた。
 あいつ、城攻めより生き生きしてなかったか?
 そしていつからか、オレのとなりには一人の女性がいた。
 スタイルが良い、なかなかキレイな女性だ。
 「この後、二人で飲みなおしませんか?」
 「いいね」
 軽い気持ちでバーに行った。近辺に二人とも知った店はなく、なんとなく入った店は落ち着いて飲むことができた。
 話題が切れない女性で、なかなか会話は楽しいんだが、何かが足りない。それを勘違いされたのか、一夜を誘われてしまった。
 一時の慰み者にしたくはなかった。それに、オレは女性の身体を求めているわけではないことに気付かされた。割り切った関係でもというニュアンスが女性から感じられるが、それはこの女性に対してすまない気がして、何より三成にも、悪い気がした。
 魅力的な女性ではあるから、傷つけないように細心の注意を払ってやんわりと断り、どうにか帰宅すると、三成はボストンバックに洋服を詰めていた。
 「三成、また教授のお付き合いか?」
 「はい。急な研究発表が入りまして。此度は名古屋市内ゆえ、殿にとってはお懐かしい場所ですよね。お土産、何がよろしいですか?」
 「其方」
 「なんでしょうか?」
 「其方だ」
 「はい?」
 「其方が帰ってくればそれで良い」
 三成の手が止まり、うつむいた顔は赤かった。
 それから、官兵衛の言葉にのせられている気がしないでもないが、オレの痕をつけるかのように、アイツを抱いた。




 「オレが愛しているのは其方だけだ、三成」

 そう自然につぶやいたんだが、オレの腕の中でアイツの身体がこわばるのを感じた。

 ・・・?

 あー、まー、普段言わない台詞を言ってしまったのはちょっとだけやましいところがあるせいか。それに、「おまえだけだ」なんて台詞は過去何人に言ってきたんだ、オレ? もちろん、どれも真実なんだが、そして当時は、そう言うことによって信じたかったものがあったんだが・・・泊りがけで出かけるコイツを信じたいために、それは翻せばオレが安心するために言ったようなもんだな。




 コイツにはそんなのは不要だ。オレがオマエに縛られているってことを伝えてやらねぇと。




 いつの間にか生じていた妙な隙間を埋めるように三成の身体を寄せ、こわばった身体をほぐすべく撫でれば、三成の色っぽい声が響いた。
 三成はクルンと身体をこちらに向けたが、オレの顔を見ようとしない。
 「どうした?」
 「いえ・・・」
 ま、いっか。
 「オレは・・・三成。其方のものだ」
 はじかれたように見上げてくる三成を、かわいいヤツだと思った。


 頑張ってしまったオレは、ボーッとした頭で、元気に出かけていく三成を見送った。





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