以心伝心
「あッ」
「ん? どしたー?」
ドリップコーヒーにお湯を注いでいた秀吉は、お湯の加減に集中しつつも、キッチンに立つ三成に声をかけた。
「いえ・・・」
秀吉がチラと三成の横顔を見ると、その頬には朱がさしているようにみえた。やかんを置いて、三成に寄り、三成が口に運ぼうとする親指を奪った。
「・・・"包丁で指を切るなんて、まるで新米主婦じゃねーか!"ってか?」
2センチほど切れた指からあふれ出る鮮血を、秀吉は舐めた。
「そんなバカバカしいこと・・・ッ!」
パッと頭によぎったことを言い当てられた三成は、恥ずかしさを隠すために、つい、怒った口調になる。
言われた秀吉は上目遣いに三成を軽くにらむ。
「オレに指くわえられて言うセリフか?」
「すみません・・・」
秀吉に手当されるがまま、三成はリビングの椅子に座っていた。
「しばらく腕、上げとけよ」
「はい・・・」
そう返事をしたものの、なぜ今日こんなミスをしたのかと、丁寧にガーゼが巻かれた指を目の前にじっと見つめた三成は、しだいに傷口がうずいてくるのを感じて顔をゆがめた。
「痛いです・・・」
「ハハハハハッ! おぅよッ!」
珍しく感情を表した素朴なつぶやきに、秀吉は大笑いした。
そして急にまじめな顔つきになり、誰に向けるでもなく、噛み締めるかのように、言った。
「・・・刃物で切るは痛いものよ」
三成は顔をあげた。
そういえば、と戦わずして敵を陥とすことに頭をめぐらしていた過去を思い起こした。
三成は、戦場に散っていった数多の戦人(いくさびと)を想った。
彼らを超えて、今、秀吉と在ることは奇跡なのではないかと、三成は秀吉を見つめていた。
三成が時折みせる、秀吉の心を満たす表情を受け、秀吉は三成の頬に手をやり、すべらせたその手で後頭部をなでる。
「ん〜?どした〜? 俺に惚れちゃったって顔してるぞぉ?」
「なッ、どっ、どうしてそうなるんですか!!」
「でも、事実だろ?」
反論する間を与えず、秀吉は三成の唇を奪った。
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