安如泰山








 「いらっ・・・・ッ!」
 来客を告げるチャイムが鳴り、反射的に声を発した三成は、しかしドアからゾロゾロと入ってくる客の集団を見て言葉を失った。
 「ここがコンビニというところですか」
 「小さいながらも機能的でございますな」
 「魅惑的なものがいろいろありそうですね」
 「かご、持っていった方がいいですよ」
 「真正面が兵糧のようでござるな」
 「兵糧まではクランクの方がよろしいでしょうな。攻められたらあっけなく終わりではないか?」
 一番最後に入ってきた人物が、呆然とレジに立つ三成に向かって手を挙げた。
 「ヨッ」
 「殿ッ。なんであなたがココに!」
 「客となって商品を買っていくのも店への貢献であろう? ひいては三成にも何かしらの恩恵があろうに」
 「だからといって、こんな大勢で!」
 「大勢の方が貢献度が高いだろう?」
 ニヤリと笑む秀吉に対して、絶対にからかいに来たんだ!と三成は内心で思った。気を取り直して平然さを装い、他の客に対すると同じように笑顔を向けた。
 「では、たくさんお買い物してお帰りくださいませ」

 三成がコンビニでアルバイトを始めて一月がたとうとしていた。
 弁当のあたため、袋詰め、会計、肉まんやフライドチインなどの温かいスナックを用意する、おでんをパックに入れるといったことを同時にこなすことも、コツをつかんでからは、スムーズにできるようになっていた。
 同居する秀吉は、三成の顔に余裕が感じられるようになったため、五大老や参謀らを引き連れ、三成の仕事ぶりをのぞきに行くことを計画したのだった。

 未だもって好奇心旺盛な人たちだ。気になった、あるいは興味をもった何かでいつ騒ぎ出さないとも限らない。秀吉らがいらぬことをしないかヒヤヒヤしながら、三成は秀吉ご一行以外にも次々とやってくる客のレジをさばいていた。

 「いらっしゃいませ」
 レジにドサッと置かれた商品のバーコードを読みこみ、客の要望で弁当をあたためる。
 「合計で1,460円になります」
 「あ、あと、おでん、ちょうだい」
 「おいくつくらい、ご用意しますか?」
 「3つ」
 「はい、では、どうぞ」
 注文のあったネタをカップによそってゆく。
 レンジからあたためた弁当をとりだし、おでんを用意し、お会計をし・・・三成が温めた弁当とおでんを別々の袋に入れようとすると、客は怒りだした。
 「もう、一緒でいいよ! こっちは急いでいるんだから、トロトロやってんじゃないよッ」
 「申し訳ありません」
 袋に詰めながら、客に対して三成は謝るしかなかった。
 「ッんっとにー!」
 会計を済ませ、捨て台詞のような言葉を残して出口へ向かう客に、三成は来店を感謝する言葉をかける。
 「ありがとうございます」
 その瞬間、店内の温度が急激に下がったように、誰もが感じた。
 様々な形をした複数の、しかしある一点に向けられた殺意を、三成も感じた。
 「あ、前田殿ッ!」
 その客の後を前田利家が追ってゆくのを、レジにいる三成は見送るしかなかった。

 「いらっしゃいませ」
 三成の前に商品を置いた秀吉が小声で話しかけた。
 「辛くないか? ま、さっきのヤツには利家がお灸据えてると思うがな」
 「鍛えてもらっていると思えば、有難いお客様ですよ? もちろん、こうしてお買い物に来てくださる殿も」
 そう言いながら手際よく袋詰めをしていく三成を、秀吉は愛おしく見た。
 「あんな奴と一緒にするなッ」
 「あ、スミマセン・・・。えっと、お会計は535円になります」
 「お前が戻ってきたら、これ、一緒に食おうぜ」
 そう言って秀吉は、三成が商品を詰めた袋をぶらつかせた。
 「はい」
 「そうそう、来週あたり、景勝と兼続が来るかもな」
 「はい?! なぜわざわざ越後から?!」
 「さぁ? 来たいだけなんじゃねーの? 良かったな、売上貢献、売上貢献」
 そう言ってフフと口許を綻ばせる秀吉を三成は軽く睨んだ。

 レジは二台ある。「次にお待ちの方、こちらのレジへどうぞ」と他の店員が声をかけているにも関わらず、秀吉ご一行は三成のレジに並んで行列を作っていた。
 ワイワイと騒ぎながら並ぶ家臣たちとレジをさばく三成とを、秀吉は上機嫌に眺めていた。





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