織田信長・ご生誕から桶狭間まで


2001.08.16
 ご生誕から、桶狭間に向かう直前までの信長様のお姿を追う旅。
 午前7時に東京駅を出発したハイウェイバスは、午後1時10分、定刻通りに名古屋に着く。バスで定刻通りに到着するというのもすごいな、と感心する。
 一人で、公共交通機関をつかって、名古屋を目的地として足を踏み入れたのは始めてだから、ちょっと戸惑ったが、信長様紀行の始まりだよ〜と、意気込んで地下鉄乗り換え口へ行く。「栄駅」で乗り換えを一回してから「東別院駅」下車。
 地下から外に出てみると、非常に蒸し暑く、大きな建物がないから、日陰もできていない。日傘は面倒だったため、帽子を深くかぶって歩く。本願寺東別院内にある『古渡城跡』。古渡城は信長様が元服された場所だが、ちょこんと石碑が立ち、説明書きがあるだけ。その隣はどうやら納骨堂で、何ともいえない香が漂っていた。石碑だけを写真におさめ、時計を見ると、1時45分。
 『万松寺』のからくり人形は2時からだ!
 東別院から地下鉄で一駅、「栄駅」の方向に歩けば10〜15分という場所に万松寺はある。信長様のお父様が建立した寺で、現在の場所には1600年頃に移されている。
 そこでは、10時から2時間おきに、からくり人形上演がある。2時の回を逃すと次は4時で、時間がもったいないと思った私は猛暑のなか、急いだ。当然汗だくになる。しかし汗をふく余裕がなかったから、擦れ違う人々には変な人だと思われたかもしれない。しかも商店街を行くのだ。急いだ結果、万松寺に着いたのは1時55分。やる気になればできるのだなぁとしみじみ思い、からくり人形が始まるまで、深呼吸をして心をおちつける。
 さあ、2時! 割と新しい建物(寺)の上部が開き、元服前の信長様が。何か台詞があるわけではなく、音楽がある中、灰を投げかける動作をしているだけ。それが引っ込むと、グルリと舞台は回転し、桶狭間直前の信長様登場。やはり台詞があるわけではなく、音楽がある中、「敦盛」を舞う動作をしているだけ。以上。・・・。
 その辺のストーリーを知っている人には「わかる」だろうが、なにも背景を知らない人にとってはおもしろくも何ともないかもしれない。
 私? そりゅあ、顔をにやつかせて見てました。
 それから普通にお参りをして、お父様の廟にもお参りをして、ちょっと緊張がとけた感じになる。
 さて、からくり人形を2時に見ることができたため、『名古屋城』へ行く時間ができた。天守閣入場は4時半までだから、行動によっては名古屋城は明日かな、と思っていたのだ。
 万松寺〜ホテル〜名古屋城という地理関係にある。チェックインをして、もともと思い荷物を持ってきてはいないが、さらに身軽にしてしまおうと思い、ホテルへ向かった。ホテルがあるのは「栄駅」近く。万松寺からホテルまでは、地下鉄で二駅、歩けば10〜15分。街を知るには歩くのが一番、とてくてく歩く。結局「東別院駅」から「栄駅」までの三駅分を歩いたことになる。
 チェックインしたのが2時45分ころ、3時にはホテルを出ている。「栄駅」へ行き、地下鉄で「市役所前駅」へ。この辺はお役所街で、地図を見るとあらゆる庁舎がかたまっているのがわかる。その脇に、名古屋城は広がっている。
 名古屋城の二の丸庭園に『那古野城』があったとされ、そこが信長様が生まれたとされる場所なのだ。二の丸庭園には石碑があるのだが、だぁ〜れも気にとめないのか、きちんと読めるのは「那」という文字くらい。「名古屋城夏まつり開催中」という書き割りが石碑の前にデェ〜ンと立っていて、何となくくやしい。実際、夏まつりは開催中で、夕方からは屋台が開店するらしかったが、私が入場した時にはまだそういう時間ではなかったので、城の足元にテントがびっしりと並んでいるだけの異様な光景だった。
 私は真っ先に天守閣へ行き、遠くを眺める。が、夏は霞がかっていて、あまり遠くまで見ることができない。本当なら山並みを見ることができるんだけどな〜と残念に思う。眺めた後で、下へ降りて行き、各階にある展示資料をじっくりと見る。名古屋城がたった江戸初期から現在までの時間が、急に短くなったような気がして、つい最近のことのように感じた瞬間がけっこうあった。
 これで信長様の生誕から元服までをクリアした!と思って、はっとした。
 順番を間違えた!
 生まれたとされる名古屋城にまず行き、元服した古渡城跡に行く、そしてオプションの万松寺に行く、というのがルートではなかったか?!
 ・・・まあ、効率よくいけたのだから、良しとする(しかない)。
 その後、名古屋名物みそかつ丼を求めるものの手にすることができず、仕方がないので天むすを手にしホテルへ。
 「暴れん坊将軍」を見ながらの質素なディナータイムは、それでも至福の時間だった。
 名古屋はどこにいっても信長様や武将たちの香がして、良い。(そういうところにしか行っていないんだけど)。


2001.08.17
 名古屋二日目。
 8時にはチェックアウトし、いざ、出陣! ということで、『清洲城』へ向かう。
 信長様が桶狭間へ赴いたのは清洲からであり、また、信長様の死後、後継者を決める会議が開かれたのが清洲なのだ。
 「栄駅」から地下鉄で「名古屋駅」へ。そこから名鉄に乗り、「新清洲駅」で下車。駅で清洲町の地図をもらった。歩き始めたものの昨日の引き続き蒸し暑く、日差しが強い。この先に信長様がいる、と思わなかったら、ばててたかもしれない。タオルで汗をふきながらゆっくりと歩く。帽子以上に体をカバーしてくれる日傘は必需品で、重宝している。
 のどか〜な川沿いを歩いてゆくと、ちょこちょこと見えてはいる城らしき建物。う〜ん、プラスチックみたいな建物なんだけど???と首をかしげていると清洲公園を通り越してしまい、信長様らしき銅像を肩越しに発見し、慌てて戻る。
 桶狭間の方向を見る凛々しい信長様と対面する私。
 しばしの静寂。
 後ろ髪ひかれる思いで写真を撮って、城へ向かった。
 うは、やはりプラスチックのような建物が清洲城だった。そして城の手前には橋が! その橋の、また、チャチなこと・・・。と思いながらも、城の入り口に向かって橋を渡る私の気分は戦国時代の姫君。自分に酔ってしまう。
 「姫、こちらへお渡りくださりませ」
 「参りましょう」
 そんな台詞を頭の中で言う。
 最初に天守閣へあがる。そこは展望台になっている。周囲に高い建物が全くないせいもあり、見晴らしは最高! しかし、霞がかっていて、本来見える山並みが全くみえず残念。
 下へ降りていくと、展示資料があり、歴史の階、産業を紹介する階となっている。そして、ついに、等身大人形がある階へ!
 信長様が桶狭間出陣前、「敦盛」を舞うシーンが再現されているのだ。ビデオによる歴史的説明もあって、人形に見とれつつ、ビデオをじっくりと見る。ここ清洲から信長様は熱田神宮に行き、桶狭間を攻めたが、私もこれから熱田神宮へ行くのだ(だって、信長様の足取りを追っているんだもん)。数百年後に、まさか私が信長様の行動を再現しようとは、信長様も予想しなかっただろう。
 清洲城が再建されたのは平成になってからのようで、その近代的な城をちょっとバカにしつつも、この旅で一番、私の気持ちが盛り上がった。
 「新清洲駅」へ戻り、名鉄線で「神宮前駅」へ。清洲から名古屋へ戻り、名古屋を越えて神宮へ行く、という地理関係。電車の中で急に力が抜け、ぼーっとした時、水分をとっていないことに気づき、ちょっとマズイと思った。「神宮前駅」の改札を出るとある神宮東門の目の前にマクドナルドが。信号待ちしている時に引きづられ、水分補給をする。
 気をとりなおして、『熱田神宮』へ。ここは木がたくさん繁っていて、日陰ができているから歩きやすい。信長塀といわれる、桶狭間勝利のお礼として作った塀がある。その頃から焼けたりすることなく立っていると思うと、感動。塀をおもいっきりなでた。信長様もさわったかもしれない、と思うと、なでずにいられない。
 でも。
 鋭いモノで刻まれているようないたずら書きが気になる。信長塀に、なんてことすんのよっ!
 うっそうと繁る木々からもれる日差しに目をやり、思う。
 あー、ここから桶狭間に行ったんだな・・・。本当はすぐにでも桶狭間に行きたいが、私の今回の旅はここで終わり。桶狭間は来年の古戦場祭りの時に行くわ・・・。
 何かにとりつかれたかのようにぼーっとしながら熱田神宮を後にし、神宮近くで青柳のういろうを買った。
 さて、この後はオプションで、『桃巌寺』へ行った。「神宮前駅」から「名古屋」へ戻り、地下鉄に乗り「本山駅」下車。
 桃巌寺は、信長様のお父様の菩提寺。住宅街にひっそりとある寺といった感じだ。ここも木々が繁っていて、枝をよけながら、敷地内をお参りする。道なりに進んで行くと、「大仏様とは静かな対話を」とある。
 大仏? どこに? 奥は墓になっているし・・・。ここで行き止まり・・・?
 うわっ!
 視線をあげると、大仏様の頭部が見えた。ものすごく驚いた。大仏様がある、ということを知っていれば普通に受け入れただろうけれど、何も知らなかった(るるぶに載っていなかった)から不意を打たれた感強し。この寺に歩いてくる間にも、大仏様の姿は全く見えなかった。繁っている木に隠されていたのだ。
 「ここからの眺めはいかがですか?」と書かれた板がある。
 むむっ。
 大仏様の後ろにマンションが見えまする・・・。
 私が立っていた場所は大仏様の目に近い高さにあるため、対話をするには良い場所とされているのだろう。じっくりとお参りした後で、大仏様全体が見られる場所まで降り、そこで目を閉じる。大通りを走る車の音がかすかに聞こえ、その音を消すように、マンション住民の生活音がある。
 大仏の前にたたずむのは私一人で、静かさが急に怖くなる。
 足早に桃巌寺を後にした。
 名古屋駅に向かう地下鉄に乗ったのは1時ころのこと。
 駅に隣接するデパートの地下でみそかつ、手羽先を買って、新幹線にとび乗った。
 椅子に座った私は深いため息をついた。心が満たされた気分だった。車窓を眺めながら名古屋から離れていく寂しさを感じた。
 信長様ゆかりの地を攻略していくこの初めての旅は、これから夢中になってしまうであろうことを予感させた。

fin


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