ぶらり途中下車の旅 〜名鉄/桶狭間から愛知征服まで〜


2002.05.03
 「こんにちは。ナカジです。ぶらり途中下車の旅、今日は名鉄沿線を探検してみようと思います。」
 ---ナカジさん、信長の野望を目指した愛知の旅。さあ、どんな旅になることやら。
 ♪パヤッパー、パッパッパー、パヤッパー、パッパッパー、パヤッパパーヤッパパヤー、パヤヤヤッパッパッパー♪
 「さて、前回の旅は一泊しましたが、今回は日帰りなんですね。」
 ---あら、そうなんですか?
 「なぜ日帰りかといえば、土日は専門学校がある→今日か月曜日(祝日)しか行くことができない→連休の最後の日は嫌、ということなんですね。数多く廻ろうと思えば、泊まらないと無理で、しかし廻りたいところを列挙したら限りがない。ポイントをしぼれば、日帰りで効率よく廻ることができる。それに、ほら、博物館などの施設のオープン時間は9時から17時。17時を超えてしまったら、一人旅のナカジはホテルに行くか、あるいは新幹線に乗って帰ってくるしかないんですよ。」
 ---あっ、そ〜か。


 ---さて、東京駅6時ののぞみに乗り、7時40分に名古屋に下り立ったナカジさん。最初の目的地はどこですか?
 「まずは『桶狭間古戦場』ですね。古戦場にある資料館は9時から開くんですよ。その前に、一帯を散策して、9時と同時に資料館に行けば効率的でしょう?」
 ---あ、なるほど。さすがナカジさん、考えてますねぇ。
 「名鉄乗り場に来たのはいいんだけど・・・あれ、どの電車に乗ったらいいんだろう?」
 ---おや、ナカジさん、何か困ったことがあったようで駅員さんに聞いてますねぇ。
 「『桶狭間古戦場』のある中京競馬場駅は各駅停車しか止まらないんだけど、なかなか各停が来ないんですよ。それで駅員さんに聞いてたんですが、「鳴海」まで急行で行って各停に乗り換えるように、ですって。」
 ---なるほどね。さて、急行に乗りこんだナカジさん、どこか不安気な表情をしていますね。
 ---名古屋駅を離れると、のどかな風景が広がってゆきますねぇ。  ---ナカジさんは乗り換えを無事こなし、中京競馬場で下車しました。
 「競馬場があるくらいだから、郊外、といえる環境ですよね。う〜ん、今日は競馬がないのか、まだ8時半だから人がいないだけなのか・・・閑散としてますね〜! JRAのおばちゃんが、駅周辺の清掃をしていますよ。
 『あのぉ、すみません、古戦場はどちらの方に行ったらいいですかね?』
 『わからないねぇ』
 仕方がないですね。あ、書店がありますよ。
 『あの、ちょっとすみません。古戦場はどう行ったらいいですか?』」
 ---書店のおじさんから丁寧に教えてもらったナカジさんは駅の方へ戻るようですね。あはっ、どうやら、競馬場とは逆の出口だったようですぅ。おや? どうしました、ナカジさん?
 「『桶狭間病院』ってありますよっ! すごいですねー。『桶狭間』が名前になっているなんて! この桶狭間病院が、私の心をつかんじゃいました。ウキウキ感とか、ワクワク感とかが一気にわいてきましたねー。」
 ---まぁー、ナカジさん、はしゃいじゃって。
 「あ、あります、あります、古戦場の石碑が。」
 ---ここ、桶狭間古戦場は真言宗高徳院という宗教団体で管理をしています。高徳院の庭には『今川義元本陣跡』があり、今川義元直系の方が石碑を建てています。敷地内には戦死者をなぐさめるためのお地蔵様や義元のお墓もあります。資料館は高徳院敷地内の丘の上にありまして、繁った木々の間から風の音を聞くことができます。こういう静かな場所が、その昔、戦いがあった場所なのですね。もうすぐ5月19日。桶狭間決戦の日ですから、義元の命日になります。ナカジさん、風の中に、無念にも戦死した武将の霊が漂う気配を感じたのかもしれません。風の中に身を預けている風なナカジさんの姿が印象的です。おや、ナカジさん、どうしました?
 「いやね、同類の方がいらっしゃるなぁと思って。」
 ---あっはっはー。ほんとうですねぇ。いずれも年配の男性ですがね。ナカジさんのような旅をしている方が一人、二人、いらっしゃいますねー。
 ---さて、次にナカジさんが向かうのは?
 「次は『小牧山城』に向かいましょう。」
 ---小牧山城は名鉄小牧駅からバスで7分、という場所にあります。
 「えー、小牧はですね、ちょっと不便なところにあるんですね。という書き方は誤解があるかもしれませんが、名古屋以南から小牧に行こうと思うと、「コ」の字を作って行かなければいけないんですね。本当にこれしか方法がないのか、ちょっと駅員さんに聞いてみましょう。
 『小牧駅に行きたいんですけど、どう行くのがベストですか?』
 『神宮前か金山に行って、犬山線急行に乗り換えて、岩倉まで行く。そこから小牧行きのバスにのるのが早いよ』」
 ---あは、ナカジさん、わかりました?
 「え、ええ、なんとか、メモしました。駅員さんの言う通りに行ってみましょう。そうすると、「|」に入るための「ー」を短縮することができるみたいですね。」
 ---ナカジさん。車内では、車窓の風景を眺めて過ごしています。あ、ナカジさん、岩倉で下車ですね。
 「ふと思ったんですけど、休日でもバスは走っているんでしょうかねぇ? 本数が著しく少ないか、全くないか、だと思うんですが。」
 ---ナカジさん、小走りになりました。
 「時刻表、時刻表・・・バスの時刻表はどこに・・・あ!あった! ・・・えー、『小牧山城』に行くには、小牧市役所経由小牧駅行きでなければ駄目なんですね。どうやら、休日は一時間に一本は走っているようです。良かった。次は・・・40分後ですね。これだったら名鉄に乗り続けて「コ」を描いた方が良かったかもしれません。でも、その場合の電車賃とバス運賃では、電車賃の方が高いな。うん。バスで良かったのだ、と自己完結しましょう。それにね、ちょーど良かった。実はね、お昼までにはものすごく時間があるんだけど、お腹が空いちゃったんですよ。この辺でお昼を・・・う〜ん、岩倉は小さい駅なんですかねぇ、バス乗り場周辺を見ても、ファーストフード店と駄菓子屋と書店があるくらいですねぇ。ま、気楽な一人旅ですし、ファーストフードへ入りますか。」
 ---ナカジさん、ナカジさんっ。駅の反対側はにぎやかそうですよぉ。あっ、入っちゃった・・・。


 ---さて、お腹を満たしたナカジさん。バスに乗る前に書店で文庫本を買いました。帰りの新幹線内で読むのでしょうか。
 ---幹線道路は空いていて、バスはスイスイと市役所前バス停まで来ました。下車したナカジさん、帰りのために、小牧駅行きバスの時刻を確認しました。
 「確認するまでもなく、今から一時間後あるいは二時間後、ですよね? だって、一時間に一本なんですから!」
 ---あはっはー。それはそうですね。バス停のすぐ近くに山へ上る入口はありまして、ナカジさんはサクサクと小牧山を上ってゆきました。ハイキングコースになっている緩い坂道をグルグルと上ってゆきます。頂上に城がありまして、その内部は資料館になっています。その最上階にあがると、尾張を一望することができるのです。どうです、ナカジさん?
 「きれいですねーーー。気持ちいいーーー。信長様が築城した時の石垣が一部残っているのも嬉しいーーー。」
 ---信長が岐阜城をたてることで小牧山城は廃城になりました。のち、秀吉と家康が戦った、小牧・長久手の戦いでは、家康がここに陣どりました。その後、尾張藩領となり、一般入山禁止となったりましたが、昭和5年に、19代の方によって小牧市に寄贈されたのです。
 「昭和5年ですよ! 昭和って、最近じゃないですかっ! なんか、グッっと戦国時代が近づいた感じ、皆さんもするでしょう?
 資料館にある、ジオラマは素晴しいですね。立体と点滅する光と映像とをうま〜く使って、とてもわかりやすい解説をしています。戦いに関する資料を集めたところでは、こういうのを作ってほしい、と強く思いますね。」
 ---あ、さて、ナカジさん、山を、螺旋状に下ってゆきます。
 「なんか、小牧山を制した気分ですよ。
 『殿! 豊臣方が向こう(ってどこだよ、オイ)を廻ってこちらに攻めよせてくるものとみえまする!』
 『何とっ! 急ぎこちらもそちら(だからどちら?)へ廻るのじゃー。よいかっ、本陣がうろたえては勝てる戦も勝てぬわっ。落ち着くのじゃー』」
 ---そんな独り言を笑みを浮かべてつぶやくナカジさん、大丈夫ですかねぇ?
 「あら。小牧駅行きバスが来るまであと40分はありますね。そういえば、バス停の向かいに、なんかショッピングセンターみたいな建物があったんですよね。行ってみますか。」
 ---あっはー、楽しそう。
 「うわー、割と大きいショッピングセンターですね。食品、衣類、おもちゃ、工具などあらゆる物が揃いそうですよ。飲食店も入ってますし、これは時間をつぶすには最適な場所ですね。あ、そうだ。」
 ---あれ、ナカジさん。どこに行くんです?
 「これこれ。」
 ---あはー、納豆。
 「そう。う〜ん、それほど種類豊富にあるわけじゃないんですが、これは見たことがない納豆なので、買います。」
 ---ナカジさん、会計を済ませた後で、そこここに置いてあるいすに腰かけちゃいました。お疲れなんですねぇ。
 「ちょっと、疲れちゃいましたね」
 ---ぼーっと過ごすナカジさん。・・・もしもし、ナカジさん。いい時間ですから、そろそろバス停に行きましょう。


 「次はですね、本日最後の目的地、『犬山城』です。」
 ---小牧駅から犬山駅まで行き、乗り換えて犬山遊園駅下車。そこから徒歩15分ほどなんですねぇ。・・・おやぁ? 一山のぼった後で、お疲れですか、ナカジさん? うつらうつらしていますね。小牧から犬山までは時間がありますから、どうぞお休みください。


 ---さて、犬山駅で乗り換え、次の駅、犬山遊園駅を下り立ったナカジさん。いたく感動していらっしゃるご様子。木曽川がゆるりと流れる様を見て、そこが国境であることに気づいたようです。
 「この橋を渡れば美濃じゃーーーーー! って信長様も思ったかもしれない。その前に、犬山に行かないとね」
 ---犬山城は木曾川沿いに建っています。川沿いを歩いてゆくと、目の前に犬山城が見えるのであります。
 「小牧山は、美濃攻略の足場になったところで、そして私は今、美濃を眼前にしているわけですよね。信長様が見たものを現在の私が見ているようで、ものすごく感動しています。」
 ---ナカジさんが歩いて上っていく脇を、車がビュンビュン走ってゆきますね。
 「城は徒(かち)で攻めるのじゃーーーーー。車なんて、駄目じゃーーーー。徒で進んでこそ、戦国武将!」
 ---ん?


 ---気を取り直しまして、、、犬山城にはこの日も多くの観光客が訪れていました。信長の叔父、信康が初代城主となったものの、稲葉山城で戦死、その子・信清が城主となりました。その後何代か城主は変わりまして、関ヶ原の戦いの後、小笠原和泉守吉次が入城しました。そして、近世の犬山城が完成してゆくのです。
 「この、木曾川沿いに建つ城ってゆーのが、おもしろいでしょう?  四階建てで、階段の勾配は松本城以上なんだけど・・・お見合いの格好で着ている人を割と見るのよね。地元の方にとって、お見合いデートで来るところなのかな? 城内部の階段は、正装ではきついと思いますけど。」
 ---そんな人様の心配はいいんですよ、ナカジさん。


 ---さて、城を出たナカジさん、それからとてもよく歩きまして、『有楽苑』へ入ってゆきました。ナカジさん、有楽苑って?
 「有楽は、信長様の実の弟です。終生貴族だった人で、茶の湯の創成期の大茶匠です。関ヶ原の戦いの時には家康方において、武力ではなく人心掌握という面において、重要な役割を果たしたのですね。その有楽がたてた茶室が如庵といいまして、それがある庭全体を『有楽苑』というのです。」
 ---そうでしたか。あら、ナカジさん、お茶とお菓子をいただいて。織田信長公を感じながらの一服は、清々しいひとときだったようです。
 ---有楽苑を出たナカジさんは、スタスタと歩いてゆきますね。ところで、どちらへ?
 「次は、本当に最後の目的地となる『奥村邸』です。銘水が湧き出る江戸時代の商家です。武田勝頼討伐の際に信長様も飲んだ、という銀明水という井戸があるのです。現在もこんこんと湧きでている井戸で、勝運の水、なんですね。いただきまーす。」
 ---どうです?
 「最高です! 信長様の体内に流れたものと同じものが、私の中にも流れたのだ、と思うと!」
 ---・・・・・・。
 「ここから犬山駅までは徒歩5分ほどです。結局、犬山遊園駅から廻り道をして犬山駅まで歩いた、ということになりますね。
 犬山線に乗って名古屋駅に行きまして、本日の旅は終わり(尾張)です。
 みなさんも、歴史発見の旅、いかがですか?」
 ---名古屋駅を目指す車内。ナカジさん、眠そうです。
 「あれ?」
 ---どうしました?
 「次は、岩倉、みたいですね。車掌さんが、小牧駅へバスご利用の方は乗り換えです、って言ってましたよね? ということは、岩倉からバスで行くルートは、メジャーなんですね。」
 ---そうみたいですね。
 「あっ! さっき下りた方と反対側が、にぎやかだ! 線路をはさんでこんなに違うとは・・・驚き」
 ---昼間、下車した駅の反対側を、ようやく知ったのですねぇ、ナカジさん。ちょっと悔しそうです。
 「さて、今回の旅で名鉄を利用するのはちょっと苦労しました。どこに行くにしても必ず乗り換えを要したのですが、乗り換えた電車がそこに行くのか、という不安が常にありました。というのは、その電車の行き先がどこにあるのか、地理をしっかりわかっていなかったためですね。
 例えば、犬山から名古屋に行く時に来た電車は「内海行き」でした。内海という土地がどこにあるかわからない私には、それが名古屋を通るのかどうか確信ができないわけですね。駅員さんに聞いちゃいましたもん、この電車は直通で名古屋へ行きますか、って。
 そして乗り換えはスムーズに行くわけではなく、どの駅でも7分くらいは待つのですね。だから、大きい目的地は3つ持っていましたが、名鉄沿線を歩くということであれば、一日に3つが限度かもしれないと思いました。
 次回、岐阜に行く際にはまた名鉄を利用すると思いますが、次は、きっとバッチリです。」
 ---最後に織田信長公と同じ水を飲んだことで、大いに満足したナカジさん。旅のしめくくりにもなったようです。
 ---歴史上のどの人物にひかれるか、それは人それぞれですし、その人の、その時々の状況にもよります。ナカジさんが織田信長公にひかれたのは、織田信長公の生き方から、迷いや悩みが解消されるかもしれない、と思ったからでしょうし、自身の生き方の「答え」が見い出せるかもしれない、と思ったからでしょう。あなたの迷い、悩みも、過去の誰かの生き方にあるかもしれません。

fin


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